生前に相続放棄をしてもらうことはできるのか
1 生前に相続放棄をすることはできない
生前に、相続放棄をすることはできません。
相続放棄はあくまでも相続発生後に行うことになります。
そのため、例えば被相続人となる方が、生前に一部の推定相続人に対して相続放棄をさせたいと思っても、それはできないことになります。
しかし、生前の相続放棄に代わる手段はいくつかあります。
2 遺言書を作成する
特定の相続人に対して遺産を相続させ、それ以外の相続人には遺産を相続させない旨の遺言書を作成しておくことで、生前に遺産の分配を自ら決めることができます。
ただし、遺留分があることについては注意が必要です。
遺言書を作成しても、その遺言が特定の相続人の遺留分を侵害する場合には、その相続人が、遺言によって遺産を取得した他の相続人に対して遺留分侵害額請求をする可能性があります。
3 遺留分を放棄してもらう
生前に相続放棄をしてもらうことはできませんが、遺留分の放棄であれば生前にしてもらうことができます。
ただし、遺留分の放棄をするためには、家庭裁判所の許可が必要となります。
特定の相続人に遺産が相続させない旨の遺言を作成したうえで、当該相続人に対して遺留分を生前に放棄してもらうことができれば、生前の相続放棄に近い状態にすることができます。
4 相続人の廃除をする
相続人が、被相続人に対して暴力をふるう等の非行がある場合には、相続人の廃除を申し立てるという方法もあります。
廃除とは、被相続人が、相続人から虐待や重大な侮辱等を受けたことを理由に、家庭裁判所に申立てをして、その人の相続権をなくす制度のことをいいます(民法第892条)。
廃除を申し立てて、家庭裁判所に認められれば、特定の相続人の相続権を失わせることができますので、生前に相続放棄をさせることに近い状態にすることができます。
廃除の方法としては、①被相続人が生前に自身で家庭裁判所に対して申し立てる方法と②遺言書に廃除の意思を記載しておく方法の2つがあります。
遺言書に記載する場合には、遺言執行者を誰にするかも定め、相続開始後に遺言執行者が廃除の申し立てを行うことになります。
5 生前贈与をする
遺産を相続させたくない相続人以外の人に対して、遺産を生前に贈与しておくという方法もあります。
ただし、遺言書を作成していた場合には、上記の遺留分の問題がやはり生じます。
遺留分は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額」(民法1043条)で計算されるので、被相続人が生前に贈与した財産も含まれてしまう可能性があります。
また、遺言書が無い場合には、相続人間で遺産分割協議をすることになりますが、この場合には生前贈与をした相続人には特別受益があったとされ、当該相続人の遺産分割における取り分は少なくなる可能性があります。
そのため、生前贈与については、遺留分や特別受益を考慮しながら、検討する必要があります。
このように生前の相続放棄をすることはできませんが、それに代わる方法はいくつかあります。
いずれの方法も、専門的な知識が必要となりますので、詳しくは専門家に相談されることをおすすめします。